Home 陶磁器の基礎知識 製法や釉薬

陶磁器は粘土を固めて焼いただけと聞くと簡単そうですが、実際にはいくつかの工程がありとても複雑なものです。作り方を知ると陶工さんの苦労がわかります。

やきものの製造工程

1.採土

地面かた陶磁器に適した土を掘ってきます。瀬戸(愛知県瀬戸市)では、ずーと昔から土を掘っているので市の中にでっかい穴が空いています。瀬戸の市民は「瀬戸のグランドキャニオン」と呼んでいます。


大きな地図で見る

白くなっている部分が採土場です、左上の市民公園にある野球場と比較するとその大きさがわかると思います。

地図をよく見るとわかるのですが採土場の廻りには森が残してあり、周辺からは見えないようになっています。なので瀬戸市民でもグランドキャニオンを見たことない人がたくさんいますね。

2.土づくり

掘ってきた土や石を砕いてフルイにかけた後で水に浸します(ハタキ土)。ハタキ土をさらに水で浸して、上に溜まった目の細かい土を分別します(コシ土)。

コシ土の方が伸びやすく割れにくいのですが、味のある陶器をつくるにはハタキ土がよいそうです。

この土をムロ(薄暗くて風の入らない保管庫)でしばらく寝かします。1年以上寝かすと良い土になるそうですがなかなかそこまでしているところは少ないそうです。

寝かしておいた土を足や手で押して空気を出します(土押し・大押し)。土を練るのは、空気が入っていると割れやすくなるのと、土を均一にして加工しやすくするためです。土をねじるようにしてさらに練り込むのを土もみ・ねじ押し・菊練りと言います。菊練りは練った土の形が菊の花のように見えることからですね。土押しを機械(土練機:どれんき)で行うこともあります。

土にこだわる工房では採土からすべて自前でやるそうです、専門業者から各段階の土を購入して使う工房もあります。

菊練りから轆轤(ろくろ)に乗せる砲弾型へ(美山陶芸教室:寺田鉄平)

3.形を作る(成形)

土を器の形にします。「轆轤(ろくろ)」「手びねり」「たたら」「型起こし」「鋳込み」の方法があります。

轆轤成形

回る台の上に粘土の塊を置いて、器の形に伸ばしていく方法です。手でまわす手ろくろ、足でまわす蹴ろくろ、電動ろくろがあります。

ろくろの歴史は古く、紀元前のギリシャの壺もなどもろくろで作られています。手ろくろは中国から瀬戸に伝わり、蹴ろくろは朝鮮から九州に伝わったと言われています。

徳利や花瓶の様に、口がちいさくなっておるものは、木でできたコテを使って作ります。ろくろから切り離すときはシッピキと呼ばれる糸を使って切り離します。

ろくろ実演(六兵衛陶苑:加藤大吾)

ろくろ実演:急須(美山陶芸教室:寺田鉄平)

手びねり

土から直接手を使って形作る方法を総称して手びねりと呼んでいます。

ろくろで基本的な形を作ってから、手で形を作ったり、土を紐状にしてとぐろを巻くように形を積み上げていく方法などがあります。

たたら

板上にスライスした土(たたら)を組み合わせて形を作ります。四角い皿や、箱状の器を作るときに用いられる工法です。

型起こし

石膏などで作った型に、土を押し付けて形を作ります。金属加工の鍛造に近い感じですね。

鋳込み

土を水で溶いて液状にした泥漿(でいしょう)を、石膏で作った型に流しこんで形を作ります。人形やポットなど、複雑な形を沢山作るのに向いています。金属加工で言うと鋳造ですね。

4.飾りをつける(装飾)

急須の注ぎ口を付けたり、茶碗の高台を作ったりします。また串や縄をつかって模様を付けたり、形に面白さを加えるために、器全体を歪ませたりします。

5.乾燥〜素焼

できた陶磁器を数日ほど放置して乾燥させます。乾燥したものを低めの温度(約800℃)でそのまま焼くことを素焼きと言います。

素焼きをすることでその後の絵付けや施釉がやりやすくなります。

備前焼などの焼締(炉器)の場合、素焼〜施釉は行わずにいきなり本焼きをします。

陶器でも素焼きを行わずに、下絵や施釉を行う場合があります。

6.下絵付け

下絵付けは釉薬の下に描く絵です。染付は呉須(ごす)と呼ばれる青色に発色する顔料を使って下絵を描いた器の事です。

下絵は筆を使って描きます。

7.施釉

釉(うわぐすり)とは陶磁器の表面を覆ったガラス性のものです。釉をかけることで水分が浸透することを防ぎ、表面がなめらかになって艶が出ます。

黄色の黄瀬戸釉(きぜとゆう)、緑の織部釉(おりべゆう)、白の志野釉(しのゆう)、茶の鉄釉(てつゆう)など、釉薬の分類がありますが、工房ごと、陶工ごと、器ごとに釉薬の成分・調合がちがうので同じように見える織部でも、見比べてみるとずいぶん色や雰囲気が違うことがわかります。

自然釉は薪の窯で焼くときに、薪の灰が表面にくっついて溶けたものです。

染付の場合は、下絵を見せるために透明になる釉薬をかけます。

8.焼く(本焼)

窯を使って焼きます。薪窯・ガス窯・電気窯などがあり、それぞれに特性があるので焼き上がりが違ったものになります。

焼く対象がことなれば焼き方も違ってきます。備前焼きなどの焼締めは高い温度で長い時間をかけて焼きます。

酸化と還元

釉薬の色は、釉に含まれる金属が発色することで決定されます。

金属は高温になると酸素と結合し発色しますが、結合する酸素の量(酸化)によって色が変わっていきます。胴の場合、結合する酸素が多ければ緑に、少なければ赤になり全く正反対の色になります。

薪やガスの場合は、燃焼の際に酸素が必要です。高温で燃えている状態で、外からの酸素の量を減らすと、中の炎が釉薬の中に含まれる酸素を取り出します(還元)。

焼き初めからの時間や温度を考えながら、酸素の量を調節することで目的の色に仕上げていきます。

焼き上がるまでには何日もかかることがあるので、薪を使って人手で調整するのは本当に大変そうですね。

焼き終わった後も、時間をかけてゆっくりと冷ましていきます。上絵付けをしない場合はこれでほとんど完成です。

緋襷・火襷(ひだすき)

緋襷は備前焼きなどの焼締で装飾に使われる技法です。

器の廻りに塩水に浸した藁を巻いて焼くと、藁の跡に鮮やかな赤色の模様ができます。

藁を巻いた部分の融点が下がり、土の中の鉄分が集まることで赤くは発色すると言われています。

引き出し黒・瀬戸黒

燃え盛る窯の中から鉄釉をかけた器をハサミで挟んで引っ張り出し、いっきに冷まします(冷たい水の中に突っ込むこともあります)。

こうすることで濡れたような美しい艶を持った黒い表面が出来上がります。

貫入(かんにゅう)

高温で溶けてガラスの液状になった釉薬が冷えて縮む際にひび割れたものを貫入と言います。

ベースとなる素地も焼きあげると2割程度小さくなりますが、釉の方がさらに小さくなるためにひび割れが発生します。

釉薬が厚いほうが貫入が目立って見えます。青磁の皿などでは、いくつもの貫入が層になって見えたりしてとても幻想的で美しいですね。

貫入に柿渋を染みこませて目立つようにしてある器もあります。自然の織り成す網目模様がなんとも言えない重みを与えてくれます。

お茶碗はカップなども、使っていくにつれて茶渋やコーヒーが貫入に染みこんで風合いを高めていきます。

最近では素地と釉薬の収縮率を同じにして、貫入が入らないようにしているものもあります。

また、釉薬よりも素地の収縮率が高い場合、表面は割れていませんが中の素地が割れていることがあります。このような場合、簡単な衝撃で割れてしまうことがあります。

外国性の器や骨董などを手に入れる際に、表面の釉薬が剥がれ落ちているものは注意が必要です。中の素地が割れている可能性が高いと思います。

9.上絵付け

焼きが完了したあとで、描くものです。描いた後で、低い温度(約800℃)で焼き付けて完成となります。

低い温度で焼くため、下絵に比べていろんな色が使えるし、発色も良いです。ただし、釉の上に色が乗っているだけなので、強くこすると剥がれてしまいます。食器洗い機は大敵です。

金彩・銀彩はさらにこのあとで描いて焼き付けます。丁寧に扱わないと簡単に剥がれてしまいます。

イングレイズ・シンクイン

簡単に剥がれる上絵付けの弱点を補うため、イングレイズやシンクインと呼ばれる技法があります。

釉薬が溶ける高い温度で上絵付けを焼き付けることで、釉薬の中に上絵付けを入り込ませる技法です。

通常の上絵付けに比べて、色や発色の制限はありますが上絵にくらべてかなり扱いやすくなっています。

10.仕上げ

最後に糸切り(器の底)を磨いて完成です。

糸切りがザラザラしていると、机やお盆を傷つけてしまうのでよく磨いてあるか確認しましょう。

窯元で購入する場合は、お願いすると磨いてくれますよ。

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